県民ボランティア運動の道程

 

~我々はどこから来たか 我々は誰か 我々はどこへ行くか~

 

1 必要に迫られて歩んだ歳月

 

 1977(昭和52)年1月、山梨県ボランティア協会の誕生とともに、多くの人々の生き方・生活スタイルや社会活動が、新たな時代のボランタリーな視点でリニューアルしました。

 翌年7月に開館した山梨県ボランティアセンターを拠点として、「広げようボランティアの輪」を合い言葉に「県民ボランティア運動」を進めてきましたが、その道程は「必要に迫られて実践し、学び、身につける営み」の連続でした。一言で言えば「出会いの縁・人と人の絆」です。

  人が集まり、人が知恵を寄せあい、人が動けば、きっと何かが創り出され、社会が変わります。このことを信じて「ボランティア・ワーク」を続けてきた歳月を振り返りますと、民間の心意気とボランティアの心を大切に皆でともに参加し、連帯して支えあいながら「歩いてきたところが道になった」ことに、ボランティアの先駆性・創造性・開拓性の原点を見出すことができます。

2 耕して、まいて、育てあった「思いのかたち」

 

 山梨県ボランティアセンターは「苗場」です。そこに出入りする人々が「ボランティアの種」を運んできます。そして、社会生活の場における多様なニーズを発見し、共有しながら必要な手を結びあい、新たな活動を生み出してきました。

 それらの一つひとつの活動を通じて、「人間が人間らしく生きるために必要なことは何か」を問いかけあい、こうしたい、このようにありたいという願いの実現に向けて努力し、素人的な行動ではあっても、実践を通じた提案や提言をするなど社会に向かって発信してきました。

 「県民ボランティア運動」を推進し、ボランティア精神の涵養と人づくりをめざして取り組んできた事業活動は「自由・参加・創造」の営みでした。一人ひとり個人の自由意志により参加し、社会の人々がどうしたら幸せになれるか、そのことを考え行動する情熱と、ともに生きる連帯の輪を広げてきた活動は、人から人へと手作りの営みに、またメディアを通じて県下各地で日常的に根付いてきたように思われますが、明日へのさらなる発展が期待されます。

 

3 山梨独特の「公私協働」による県民ボランティア運動

 

 1974(昭和49)年12月の山梨県議会で「ボランティアセンター構想」が提唱され、重点施策として取り組まれた県民ボランティア運動の根幹をなす考え方は「公私協働」でした。従来の行政依存の施策や公共的事業だけではなく、県民の積極的参加により「新しい福祉の風土づくり・郷土づくり」を進めるための条件整備・基盤整備として県民ボランティア運動の拠点となる「山梨県ボランティアセンター」が建設され、このような公的施策と呼応して民意によるボランティア活動の啓発普及と実践的な活動を地域に根付かせるために皆で努力し展開してきました。 

 公私協働の主体は、山梨県、山梨県社会福祉協議会、山梨県ボランティア協会の三者であり、それぞれの組織的役割分担による仕組みを構築して取り組んできました。

 しかし、38年が経過した今、社会の変化とともに建物の老朽化、耐震対策、財政問題など大きな課題を抱えながら、これからの歩むべき道を模索する転換期を迎えております。「温故知新」の例えのように、今までの歩みを振り返り、三者間の円滑な連絡調整による「新たな協働の仕組みづくり」をして対応しながら、希望と可能性のある明日に向かって英知を結集していきたいと願っています。

           山梨県ボランティアセンター構想の背景(その思い)

 

 ボランティアセンター構想から建設までの経過をひもどいてみると、望ましい福祉社会を構築するためには、行政が単独で施策を行うのではなく、県民ボランティア運動の展開の中で県民とともに実現させることが理想的である、そのために必要なボランティアの拠点づくりに着目して、全国でも類例のない独立した建物であるボランティアセンターを建設したことは、時の県政担当者の先見性と英断によるものでした。

 欧米七カ国の福祉事情を視察した当時の田辺国男山梨県知事は、市民ボランティアに支えられた欧米社会の実態をつぶさに見つめて、山梨県でもこのような社会づくりをできないはずはないと、山梨県ボランティアセンター構想を提唱するに至った考え方をまとめ、1977(昭和52)に著書「福祉を支えるもの~欧米の福祉施設を見学して~」を出版しました。その中で、次のように語っている言葉が印象的です。

 

「真の福祉とは、私たち一人ひとりが、うるおいのある豊かな心、思いやりのある優しい心をもって、出会い、語り合い、ともに汗を流し合うところにこそ育まれるものである。

 どんなに立派な福祉制度や施設ができようが、人びとの心の中に思いやりの心と実践が育たない限り、真の福祉社会は創れない」

 「誰もが、温かい善意や優しく慈しみあう心をもち、他人や社会のために役立ちたいと思っている。その善意と社会貢献の意欲を掘り起こして行動し、山梨の温かい福祉づくりをするために県 民ボランティア運動を提唱し、思いやりの心で自主的に行動して地域の連帯と結集による活動を呼びかけている。

 そして、ボランティア団体との話し合いを重ねながら、県民のボランティアの心の城であり、福祉団体やボランティア団体の拠点となるボランティアセンターの建設計画を進め、積極的な県民の参加と協力を得るなかで、西欧に負けない県民参加による新しい山梨の福祉風土づくりを目標に努力していきたい」☆

 

 その当時の記録を改めて見直してみると、38年が経過した今日、ボランティアセンター構想の根底にある「県民参加と創造」の思想が根付き、生活の中で生き続けていると思います。

 それは、一人ひとりのボランタリズムの実践に裏付けられた、真の福祉社会を願う遠大な理想ではあるが、正しい理念と実践に裏付けられた運動論を提唱し、その具体的実現に向けて行政もボランティアも情熱を持って前向きに取り組んだ大きな足跡であったように思います。

 このようにして、行政とボランティアが「信頼のパートナーシップ」を堅持し、相互に関与しあう両輪の構図をつくりながら役割を分担して県民ボランティア運動が徐々に理解され、日常的に市民権を得るようになりました。ボランティアセンター構想の目標を実現する過程は、必ずしも平易な道程ではありませんでしたが、そこで培われたさまざまな試練が、多くの人びとの善意と知恵と勇気を結集して、今日の県民ボランティア運動の確かな礎となっています。

 

山梨県ボランティア協会設立趣意書・抜粋

 

 1977(昭和52)年1月、ボランティアセンター構想に基づく県民ボランティア運動の拠点となる山梨県ボランティアセンターの運営主体として、民間の任意団体である山梨県ボランティア協会が設立されました。設立にあたって協議のうえ次のような趣意書が策定されました。

 

★「西欧と比較すると日本は市民の参加意識と自発的行動が希薄ですが、その市民意識に根ざしたボランティア活動を活発にすることが、誰もが人間としてともに生きる喜びを分かち合 える、心豊かな明るく住みよい社会の実現につながります。

 ボランティア活動こそ、ともすれば失われがちな人間回復のかがり火であり、行政による各種制度の改善や施策の拡大充実と相まって、地域の連帯性に裏付けされた県民の積極的な参加と協力により社会福祉を充実させるための決め手です。

 私たちは今、真の福祉社会の建設に向かって着実に歩みを進め、新しい価値観の創造を求めて大きく意識の変革をしつつあります。そして、人間同士がともに信じ合い助け合って、心豊かな郷土山梨づくりと社会福祉の伸展のために、一人でも多くの県民がボランティアとして育つことを期待して、ここに山梨県ボランティア協会を設立致します」☆

 

 

         行政とボランティア(協働・協創のパートナーシップ)

 

 1996(平成8)年7月29日、東京赤坂プリンスホテルにおいて「第1回幸住県懇話会」(山梨県主催)が行われました。出席者は、天野建山梨県知事、江橋崇法政大学法学部教授、山崎美貴子明治学院大学学部長・東京ボランティア市民活動センター所長、岡尚志山梨県ボランティア協会事務局長の5名でした。

 「ボランティア」をテーマとして現状と展望について語りあった内容は記録としてまとめられたが、その中で「行政とボランティアの関係」について語った次のような一文を引用します。

 

★行政とボランティアの関係については、組織的立場や仕事の内容が違いますし、独自の特色をもっています。山梨県のボランティア運動20年の歩みの中で、それぞれの特性と違いをおおらかに受容しあいながら、「一定の距離と適度の緊張感」を保ちつつ「信頼のパートナーシップ」を築いてこられたことは、山梨県における協働の成果ではなかったかと思います。

   これは、全国的に見ても異例のようですが、ローカルな山梨県で公私協働の歩みを続けてこられたことは、県行政の温かい理解のある支援があったからこそと思います。

   また、「行政は(条件整備・基盤整備などに)金は出しても、(ボランタリーな市民活動に 対しては市民主体の原則を尊重して)口は出さない」という対応の背景には、「ボランティアの方からも県民のニーズや行政の取り組みに応えて、民間の立場から創造的・開拓的な仕事をする」という双方向の関係を構築する努力が重要課題です。難しい問題ですが前向きに取り組む考え方があったからこそ今日まで続いてきた、山梨らしいあり方だと思います。

  そうした中で、これからのボランティアの支援については、ボランティアの自主性とか活動の多様性を損ねることのない配慮が必要だと思います。また、ボランティアの側に立ちましても、ボランティア活動を自前で自主的に行うという一面を持ちながらも、主体性・独自性・自由性のみを強調するのではなくて、活動を通じて社会性・連帯性・運動性を高める意識をもって行動することが必要です。

  これからの郷土づくり、地域づくりのためには、公私協働の理念に立った役割を明確にしながら、行政もボランティアも双方の立場から「協働・協創」のパートナーシップを育てる努力を怠ってはいけないと思います。☆

 

 懇話会を終えて、改めて山梨県の特色として、「行政とボランティアの関係」が実に円滑なパートナーシップによって維持され、継続されていることの重要性に気づかされました。行政もボランティアも相反分離でなく協働して社会を変えていく協創の役割と使命があります。

 行政が行う「公益性・公共性・福祉性」の施策以外に必要なことが求められています。公的制度や施策の枠ではカバーしきれない問題に対して、「気づきから行動へ」と柔軟に対応できる民間性を発揮して「新たな公益性・公共性・福祉性」を先駆的・創造的に開拓していくことの重要性を認識し、可能性を期待しながら、行政が金を出して支援することが必要な現状です。

 そして民間のボランティアは、そのことの意義を受けとめ、必要のネットワークづくりをしながら「公益性の増幅」を図り「付加価値」を高める活動を推進することです。そこに新しい公私協働の仕組みが拡充されながら、豊かな郷土づくりに発展していくのだと思います。

 これらのことを確信しながら、人づくり、心づくり、連帯と連携のあるネットワークづくりをしていくことが今後の課題ではないだろうかと思います。時代の変化の中で、いかに我々自身が変わっていけるか、その自覚と勇気と行動が問われています。        (文責:岡尚志)

<平成27年7月31日付け山梨日日新聞「論説」>より転載

 

 

 ボランティアセンター 

拠点のあり方含め考えたい

 

 甲府市中心部で県内のボランティア活動の拠点となってきた山梨県ボランティア・NPOセンターが岐路に立っている。

 設置者の山梨県社会福祉協議会は、築後40年近い建物の老朽化に伴い、来年3月末までに閉鎖する方針だ。耐震基準を満たしていない可能性が高く、安全を確保できないと判断した。今秋に耐震診断の結果が出るが、建て替えや改修は財源確保が困難だという。

 センターは、県ボランティア協会が事務局を置き運営しているが、閉鎖となれば協会も移転を余儀なくされる。センターの存続を求めて協会や協力者は署名活動を展開。協会によると、これまでに約5万7千人分が集まり、来月県に提出する。

 かかる費用を考えれば、建て替えや改修を軽々に求めることはできない。センターの年間利用者の延べ人数は、ピーク時の1980年代後半は約7万人だったが、2014年度は約2万5千人。活動の場を貸し出す施設はセンターのほかにも市内外にある。ただ、センターの役割は場所を貸し出すだけではないはずだ。

 ボランティアに関心のある団体が集うことで、出会いや情報交換を通して活動を活性化させる効果があるだろう。ボランティア協会がセンター内にあることで、センターを利用する団体間のつなぎ役としての役割を担う点も見逃せない。ボランティア拠点としてのソフト面の機能も踏まえて、センターのあり方を考える必要がありそうだ。

 センターの今後について、山梨県は協会や県社協と協議していく。県民生活・男女参画課によると、県全体のボランティア運動をどう支援していくかという視点で検討、センターの役割や機能を検証する。相談対応やボランティア教育、団体間のネットワークづくりなど、ソフト面にも着目していくという。

 協会が移転するに当たって事業を見直す場合、県社協は事業を引き受けることも含め対応を考えていく。ただ、センターの方向性によって、協会や、センター利用団体が後退するようなことがあってはならない。

 今の社会が抱える課題を解決する上で、ボランティアやNPOなど民間の役割は一層重要になっている。ボランティアの掘り起こしやNPOの設立支援、各団体のコーディネートなどのニーズは高まりそうだ。センターとともに協会や県社協が果たしてきた役割も検証し、今後のニーズを見据えた活動のあり方を探ることも必要だ。行政が民間の力を生かそうとするのなら、民間への支援も欠かせない。

 甲府市の視覚障害者、長沢誠さん(71)は、センターが点字ブロックや音響式信号機など移動環境が整った市中心部にあり、JR甲府駅からも近い点を挙げて「使いやすく、今の場所にある意義はある」と言う。館内を歩く際に「設置された点字ブロックからそれても職員に声をかけてもらえる」という安心感もある。

 甲府駅から比較的近い県福祉プラザや男女共同参画推進センターと比べても、ボランティア・NPOセンターは利用する障害者にとって立地上の利便性があると言える。センターのあり方を考える上で障害者の社会参加を促すという観点も欠くことはできないだろう。(清水健)

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